プリセール物件の売却と買い取り仲介の違い①

タイでは日系の飲食店も含めてそれなりに日本で名のある店でも、店員たちは自分達のおしゃべりに余念が無く、鳴り止むことがないほどです。トレーニングを受けてないのか?とつい思ってしまいます。
そんな状況は理解しているのですが、先日ある日系のラーメン屋さんにてあまりの煩さについ僕も注意しようかと思ったところ、もう一人いた先客の日本人が先陣を切りました。
第一声がとても大きな声であったので、僕も腰を浮かして驚いてしまいました。かなりの迫力を持って怒鳴りたてる中、一瞬にして店内は静まり返り、薄笑いを浮かべるタイ人スタッフに怒りが増幅してしまったようです。怒鳴っているとはいえ、日本語でしゃべっているので何を言っているかはわかりようがないものの、何を言わんかは理解していたのではないかと思います。
薄笑いについては、人前で怒られる事が苦手なタイ人ですので、そうするしかなかったと推測します。僕も慣れているとはいえ、あまりにひどい有様に怒った方の気持ちも理解できる状況でした。
いつもこの店は気持ちよいくらい挨拶が徹底されていて、味も僕好みなのですが、忙しい時間帯に僕含めて2人しかお客がいなかったのは少し気になりました。以前はこの時間帯満席だったのに…。
帰り際その方は僕に向かって軽く手を上げました。申し訳ないと伝えたかったのだと思います。僕も理解していますよ、という気持ちで手を軽く上げました。
その後の店内は小声での会話に変わっていました。
さて今回はプリセールでの購入後の売却と買い取り仲介の違いについてですが、日本人の不動産を良く知っている方に言わせるとプリセールは買い取り仲介に似ているね、といわれます。
結果的に見ると共に登記をしない手法ですので似ていないこともありませんが、プリセールは投機的手法であり、買い取り仲介は全てとはいえませんが、業者の利益取得方法なので感情論として全く異なるものと思います。
買い取り仲介(中間省略)とは、不動産業界内では良く使われる手法なのですが、一般の方にはあまり知られていないと思います。何故ならばこれは買い取り仲介ですよ、という売り方はしません。売主、買主にはなるべく感づかれないようにするのが買い取り仲介なのです。
いくつかのパターンはあるのですが、実際にあった例を紹介します。
僕自身もまだ不動産業界は入りたての頃の話です。売主A、買主B、仲介業者C、買い取り業者Dとします。
あるお客様が来店されて用件を伺ったところ、「持っている家を売却したい。」との事。お客様は60歳後半の方だったと記憶しています。見るからに人の良さそうな方でした。当時買い取り仲介なんて仕組みを知る由もない僕は上司同席の上で話を進めました。お客様が帰宅後、「買い取り仲介しよう」と上司からの声。
勤めていた会社は、社長の考えの下とても信頼を築き上げていた会社でしたが、当時の上司は正直申し上げて、ずる賢い方でした。
当時の僕は「買い取り仲介?なんですかそれは。」という思いでした。人に聞くより体で覚えろというのが当時の不動産業界の風潮であったので、上司の話に耳を傾けていました。
金額までは全て覚えていないので架空の部分も多くなりますが、仮に売却できる相場を3,000万円とします。しかし売主は上司が提案した2,500万円での売却を合意しました。その条件にピッタリとはまる顧客がいることを知っている上司Cは、早々にそのお客様にアプローチして3,000万円で買付証明書をいただきました。
何故2,500万円にて媒介契約を頂いたのに3,000万円で買い付け証明をもらったのだろうか?
この時点でまとまった内容は、
売主Aは仲介業者C媒介の下、2,500万円で買い取り業者Dに売却する。

買主Bは3,000万円で仲介業者C媒介の下、買い取り業者Dより買い受ける。
実際に売主Aに伝わっている事実は、買い取り業者Dが買い取ってくれるということです。ここで買い取り業者Dは購入した物件を登記すれば何ら問題のない取引なのですが、実際には登記をしません。登記をせずに売主Aから買主Bに横流しをするわけです。これを中間省略といいます。
登記をすれば登録免許税等の経費がかかります。少しでも利益を落とさないために登記をせずに買主Bへスルーするわけです。
仲介業者Cは仲介手数料を徴収し、買い取り業者Dは買い取ったようにして実はそのまま横流しをするわけです。
何も知らない売主Aは、本来3,000万円で売却できたのに2,500万円ほどが売れる価格でしょうと言われ、それを鵜呑みにして、最終的に早く売れてよかったと喜んでおりました。
注意1
売主がしっかりと相場を調べていれば、こうはなりませんでした。大きな土地等であれば別ですが、一般住宅の場合さほど相場を調べることは難しくなかったはず。
買主Bは希望通りの家が手に入ったのでこちらもまた喜んでおります。
しかし内実は買い取り仲介などといった事をA,B共に知る由もなく、お互いの顔すら知らずに事は
運んでいるのです。所有権移転登記、金銭授受(決済)の当日、概ね不動産取引の決済は銀行の応接室で行われるのが一般的ですが、隣同士の部屋に事実を知らないまま集められ、売主側と買主側の部屋間をせわしなく動き回る上司Cの姿がありました。双方は面識もないままに取引は終わります。
自らの経験が進むに連れてこの仕組みを明確に理解するに当たり、に悪の片棒を担いでしまった罪悪感にとらわれました。
なぜ買い取りをしないか?というと、買い取りはかかる経費も大きくなり早期に売れない場合にはそこでも経費が積み重なる、また買い取った家の状態においては大なり小なりリフォームする経費も発生する、そうなると買い取り仲介よりももっと提示額が低くなります。
売主が買い取り額は受け入れられないけど、早期売却を望んでいるため、必ずしも悪とはいえない部分もあるとは思います。
ただ僕が経験した内容は特に早期売却である必要もなく、相場の3,000万円ですぐに売却できたわけで、やはり僕にとっては後悔のある仕事の一つです。
最悪の例としては媒介契約を締結した物件を、ろくに営業活動もしていないにも関わらず、営業活動はしているが長期間売れないと説明し続けます。売主が痺れを切らす頃に、本来3,000万円で媒介契約を結んだ物件に対し、「2,300万円で買い手が現れたけど、どうしますか?」と切り出します。
このいった悪質な買い取り仲介狙いもあります。営業活動をしているように見せかけ、他業者からの問い合わせがあっても決まってもいないのに「決まったよ」なんて平気で言います。
売主は長期間売れないことにより、3,000万円では売れないとの思いにさいなまれます。そして、特に売却しなければならない事情がある方は、期限が迫ればそれを呑むしかなくなる場合もあります。媒介契約を結んだ仲介業者は、そういうところも見通している可能性もあります。
注2
このようなパターンは、旧知の仲である不動産業者に依頼した場合や知り合いを通して不動産業者を紹介してもらった場合に良く起こります。僕はなるべく深い関係の知人友人からは不動産の売却依頼は受けないようにしていました。「友達だから安くしておくよ」「良心的な不動産紹介するよ」的な言葉は、不動産業界の中では信用のおけない言葉と捉えた方が良いかもしれません。
回避方法
これは比較的簡単です。旧知の仲やその紹介である為、他の不動産業者には情報を出しにくい、とお考えの方に言っておきます。それは、日本人的発想だと…。
不動産媒介契約の中には専任媒介、一般媒介とあるのですが、一般媒介に切り替えてください。数社、他の不動産業者に当たることにより、親身になってくれて早急に問題解決を図ってくれる営業マンに必ず出会えると思います。
また、数社に査定依頼することにより相場がつかめると思います。
専任契約を締結した場合は、基本的には3カ月契約を結ぶことが殆どです。3ヶ月を超えない範囲での契約となりますので、本来は1ヶ月でも良いわけです。しかし3ヶ月が慣わし的になっているので、その期間が短くなると業者としては喜べないので、手抜きに繋がるかもしれません。
過去の経験から言うと専任媒介のほうが納得できる売却に繋がる可能性は高いと思いますが、もしそこに悪が潜み、努力しているフリをしているだけであれば物件が眠ってしまいます。
そして2,300万円で合意はしましたが、その金額より高い買主が必ずいると思ってください。何といっても買い取り金額、またはそれに近い金額ですので。どのような売却パターンでも、悪を防ぐ為には自らが学習して相場観を掴んでおくことです。
以前と違い、インターネット等で簡単に情報は取れます。一般の方が最も理解することが難しいパターンは自宅用途以外の物件です。例えば東京23区域で土地が100坪となれば購入できる方は滅多にいません。300坪以内であれば一戸建て業者の購入範囲で、それを超えるとマンション業者の購入範囲となります。もちろん全てではありませんが…。よって一般に出回ることは少ないのです。中には大きな土地も情報化されていますが、インターネット等に出ている物件は業者が手を出せない価格ですので高いと判断できるでしょう。
残念ながら100坪前後以上の広い土地等、一般相場で売却することは面積が大きくなればなるほど難しくなり、相場より7割前後の業者買い取り価格となります。商業地域や前面道路の広い場所にて高度が稼げる物件であれば高値が付きますが、逆に建蔽率50%、容積率100%の、いわゆる低層地域は相場の半額もありえます。
通勤に1時間以上もかかるベッドタウンになると水、緑、景観等を保つ為に風致地区が都市計画として設けられていて、建蔽率40%、容積率80%という地区もあります。
こうなると相場より50%以下というのも有り得ます。例えば東京23区域で親の援助もなく30坪の土地を購入すれば大したものだといえますが、容積率が80%では、最大24坪までしか延床面積が取れません。
23区域では概ね容積率200%以上取れている立地が多く、斜線制限等他にも付随する制限を外して考えれば30坪の土地に対して60坪までの延床面積を確保できるわけです。
風致地区では広大な面積を所有している方が目立ちますが、マンションディベロッパーに売却しようとも、通勤時間、総戸数等の問題で手を出さない業者が多く、検討するとなっても相場から比べて目を疑うような低い金額が提示されると思います。
では一般の方が購入できないような広い土地をお持ちの方が相場観を身につけるためにはどうしたらいいのか?自ら数社の不動産業者に出向くか、インターネットを利用しての一括査定があります。ただ一括査定において、買い取りではなく仲介の場合、あまりに高い査定額を出してきた業者には逆に気をつけましょう。
また、面と向かって話した方が担当の親身度も測れると思います。
査定をする際は必ず3社以上は話を聞きましょう。
注3
こうならない為に、自ら相場をしっかりと把握しておくべきです。知り合いだからと任せたままにするのではなく、自ら出歩き大手中堅の常にお客様の数が多そうな業者のいくつか相談することにより相場観は身につくと思います。
ただ買い取り仲介の場合は、その事実を知らないままに取引を終えてしまうことが殆です。ある意味、知らないほうが幸せなのかもしれません。
では次回、買い取り仲介を見破る方法とプリセールについて説明いたします。
と、ここまで書きましたが、僕も日本を離れて数年経過しますので、現状はなんともいえませんが、当時買い取り仲介については厳しい規定ができたと記憶しております。今では買い取り仲介は殆ど執り行われていないはずです。そのあたりも説明する予定です。

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