EIA 厳格化、コンドミニアム建築規制は強化の方向へ  (その1)

タイトルを見ても、タイのコンドミニアム事情によほど精通している人ではないとピンと来ないかと思います。

EIA = Environmental Impact Assessment (環境への影響審査)の略で、タイ資源環境庁内の資源環境政策・計画 といった部署が行う、大規模構造物が環境に与える影響に関する審査を意味します。

EIAが認可されないと建設許可が降りませんので、既にプリセールで予約販売されたコンドミニアムが建たない、という事になります。「何で認可されていないコンドミニアムを売るんだ?詐欺じゃないか?」と誰もが思ってしまいますが、これがプリセール(=プレビルド、オフプラン どれも同じ意味)販売のリスクの一つなのです。

元来完成していない不動産を売るので安くしますよ、というのがその意味なのですが、そのような発想は不動産市場の中でいとも容易く蹂躙されます。2018年までの活況時にはプリセール価格で購入した購入予約権の価格が上昇を続けていたのは、タイの不動産に詳しい人であれば良くご存知のことかと思いますが、こちらの話は長くなりますのでこれ以上は触れません。


※よく目にするEIA Approved広告

話を戻すと、新規コンドミニアムプロジェクトは、EIA認可が無くてもプリセールは可能となっています。プロジェクトオーナー(=ディベロッパー)と関係省庁とはEIAレポートの作成する際に多くのやり取りを関係省庁と行い、EIA認可を申請する際には既に内諾を得ているのが一般的です。コンドミニアム開発は巨額の投資額となりますので、そういった慣行は極当たり前という事なのでしょう。そこら辺の内情は厳しさ等の違いはあれ日本もほぼ同じかと思います。

タイのコンドミニアムのEIA認可手続きに関して、現地の不動産ポータル“think of living”がわかりやすく説明していますので、翻訳した下図を参照下さい。


※EIA認可の流れ 出典:think of living

内々にコンセンサスは取れているもののやはりお役所仕事なので、EIAの認可が予定よりずれ込んだりする事も決して少なくありません。

最近の例としては、ヨシダ不動産も売買取扱が比較的多かったエカマイの人気プロジェクト、インプレッションエカマイが挙げられます。2019年に入り、タイのディベロッパー“オールインスパイア”、日本のJR九州とフーターズの3社による共同プロジェクトとして販売が開始されました。コンド市場の不調が顕在化した矢先でもあったので、プリセール開始当初はあまり販売がふるいませんでしたが、低層階のユニットを値下げする等あの手この手のプロモーションを行うと徐々に販売が上向き、ヨシダ不動産でも10件以上の扱いを行いました。

その後プロジェクト人気も定着して転売等も悪くない結果を出していたのですが、2020年になってもEIAが降りず、「大丈夫なの?」と不安を抱きはじめたところ無事EIAが認可され事なきを得ました。

コンドミニアム市場が活況期の頃は、EIAが認可されると販売価格が上がる、という共通認識があったほどなので、ディベロッパーにとってEIA認可は100%政府公認のプロジェクトになった事を意味し、プロジェクト成功への大きな一つの関門という事なのでしょう。

一方、外国人購入者にしてみれば、そんな事があるの?といった次元の話にしか感じられていないと思います。

上記図にもある通り、万が一EIAが認可されなかった、という事態に陥るとディベロッパーは返金のみに止まればいいのですが、最悪の場合は損害賠償を覚悟しなければなりません。購入者にとって、優良ディベロッパーであれば返金等の心配はさほどないかもしれませんが、知名度も資金力もないディベロッパーの場合、かなりの不安が残ります。

勿論、購入者への影響も深刻です。返金があればいい、と考える人は先ず皆無で、自己居住目的であれば、綿密に立てた購入計画、完成後の生活設計がご破産になります。転売で購入した人はプリセール価格からの上乗せ価格で購入しているのが一般的ですので、ディベロッパーからプリセール時の契約上の金額が返金されても損をします。転売した人が完成を保証するわけではないですし、ディベロッパーにしてみれば上乗せ価格で購入したのは自分たちの責任ではないので関係ないですよ、というわけです。

又、EIAが一度認可されたにも関わらず、政府に認可された約束通りに建設を進めない場合は建築差し止めの憂き目に会うことも・・・。これに関しては、その数ほど多くはないもののパタヤで数年前に起きました。ウオーターフロントレジデンスというパタヤでは最高額に近い価格のプロジェクトでしたが、高層コンドミニアムと隣接するホテルの躯体がほぼ出来上がったところで、住民運動によるクレーム→再調査の結果、建築差し止めとなりました。

これは、プロジェクトのサイズ、価格、知名度から、かなり大きなニュースとなりました。

参照過去ログ:腐蝕が進むパタヤウオーターフロントレジデンス&スイート

パタヤやプーケット等のリゾート地区のプロジェクトは通常外国人区分から完売する為、ディベロッパーは外国人とタイ人への販売価格と条件に大きな差を付けます。外国人購入者は完成までに物件価格の7〜8割程を払わせられますが、タイ人は完成までに2割程しか払わず、価格そのものが1〜2割ほど安かったりします。このやり方は、まさに二重価格&条件構造となっており、噴飯ものの商売としか思えませんが、これがパタヤコンドミニアム市場の実像なのです。

プロジェクトによってはタイ人、外国人の価格・条件差が少ないものもありますが、大多数は前者と見て間違いありません。

いずれにせよ、頓挫したウオーターフロントレジデンスは完成せず、プロジェクトオーナーは倒産、購入者への返金は今もって訴訟の真っ只中、という状況になっています。僕の知る限りでは、この例はタイコンドミニアム市場の最悪なケースかと思います。

EIA厳格化の詳細に関しては、次回に続きます。

 

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