新型コロナウイルスによるタイ不動産業界への影響 (その6)

正直なところ、ヨシダ不動産賃貸業務の営業体制の見直しを進めていた4月中は、コンドミニアム売買業務の方にはさほど注意を払っていませんでした。コンド市場が悪い方向に行く(反面、バーゲンハンターには好機)のは明らかだが、値引きをしての在庫一掃セール等々は当然あるものの底値に近付くのはもっと先だろう、との確信めいた思いがあったのもその理由です。

それとなく自分でも買いたいような幾つかの魅力的なプロジェクトを定点観測してはいましたが、コロナというエポックメイキングな節目にありながら、さほど価格は落ちておらず、相変わらず、○%の賃貸収入保証やらヨーロッパ旅行が漏れなく当たるやらといった具合で目新しいものは特に見受けませんでした。

1ミリオンバーツディスカウントとかのキャッチ広告を見ても、それはディベロッパーが完成後のプロジェクトに対して、市場価格を適当に設定した後の値引きの為、プリセールス時の価格を割っているわけではありません。また、完成後2〜5年経っていたりするので、その間の利回り計算をすると全くお得感は無かったりするようなものばかりです。

当初予想した通り、もうしばらく時間がかかりそうだ、というのが実感です。

ずいぶん前にも当ブログで書きましたが、過去を紐解くと、タイ近代史における最大の経済危機は、俗名トムヤンクン・クライシスと呼ばれる1997年のタイバーツ暴落である事は誰もが認知するところかと思います。結果的にタイは経済破綻し、IMF(国際通貨基金)の管理下で経済を立て直す事態にまで陥りました。尤も、その憂き目にあったのはタイだけでは無く、インドネシア、フィリピン、韓国も同様の轍を踏む結果になったのですが・・・。アジアにおいては、それだけ大きな出来事だったのです。

その頃、僕自身は、旅行会社の現法責任者としてタイに駐在していましたので、その状況を目の当たりにしました。その頃は、BTS(高架鉄道)もMRT(地下鉄)も無く、今の近代的なバンコクからは想像できない、アジアの魔都といった趣が強く残っていました。

半ば偶然の成り行きで、スクムビット地区に2件のコンドミニアムを今の価格からは想像できないような安値で購入したのですが、それが大ヒットどころかホームランのような投資益をもたらしてくれました。その後、20年に渡り所有しましたが、賃貸利回りは13〜17%を維持し、購入時の2.6〜2.7倍の価格で売却しました。

加えて、購入時の為替レートは、1US$=40バーツ程でしたので、大きな為替差益もありましたので、USドルベースにすれば3倍程の価格で売却した形になります。

今思えば夢のような話ですが、今回のコロナ危機はタイ不動産にどこまで影響を及ぼすのか?1929年の世界恐慌を想起させる、と囃し立てている人も多く、まだまだ余談を許さないところではありますが、不動産市場においては1997年のような事態までにはならないだろうと僕自身は思っています。

大雑把ですが、
リーマン<コロナ<トムヤンクン
といったイメージです。

コンドミニアム価格の高騰、米中貿易戦争等の影響で2018年には既にコンドミニアム販売の減速が始まり、2019年に入りタイ中央銀行主導によるホームローンの厳格化によって市場後退が鮮明になる状況下で、大手ディベロッパーは新規コンドミニアムプロジェクトをサービスアパートに振り替えたり、凍結したりという舵切りを実行した後の事だったので、まだ助かっている面もあるのでは無いかと見受けます。

もし新規プロジェクト数が抑制されないまま今回のコロナ問題に突入していたら、もっと過酷な状況になっていた事でしょう。

とは言うものの、用地の取得が終わっていたり、何らかの事情によりストップできなかったプロジェクトもあるでしょうから、ディベロッパーによって状況はマチマチでは無いかと思います。

一番の問題は、今年に入って完成した、又完成予定、そして来年又は再来年に完成予定のプロジェクトの売れ残り在庫でしょう。

特に2019年は、スクムビット地区を中心に、結構な数の日系ディベロッパーとの合弁事業による新規プロジェクトが売り出されていますので、頭の痛い思いをしている関係者を多いのでは無いかと推測します。今後どのように在庫をクリアしていくのか興味深い限りですが、ひょっとすると底値買いのチャンスもあるかと思いますので、目を離せないところでもあります。

購入した人は既に最大で3割ぐらいのダウンペイメントは支払い済みとなっていますが、これらを損切りして引き渡しを受けない購入者も少なからず出て来るのでは無いかと思います。特に外国人購入者の半数近くを占める中国人バイヤーは、思い切った勝負をする傾向にあり、日本人のように「せっかくここまで払ったのだから」といった感情的な要素は無く、損得のみでスパッと意思決定をするはずです。

そうなると今後かなりのキャンセル在庫が出て来るのは火を見るより明らかです。中国人が買っているのはラマ9世やラチャダー地区に限定されている、との先入観を持っている人を多く見受けますが、実際はスクムビットのラグジュアリーコンドを含めて、投資対象エリアと物件グレードは多岐に渡ります。実際アソークで完成引き渡し予定のセレス・アソークやムニク・スクムビット23等も多くの中国人購入者がいます。

昨年完成したエッセ・アソークはラグジュアリークラスですが、実際多くの中国人オーナーがいます。完成後になかなか引き渡しに応じない様子を見て、「投げ売りありかな?」と思い指値を入れたりしましたが、海千山千の強者が多く、思うような結果が出せなかった事は記憶に新しいところです。

バーゲンハンターにとってはしばらく目を離せない不動産市場となる事は確かですが、これはタイに限った事では無く、世界中の不動産で同様の状況が展開するはずです。事実、僕自身はバンコク以上に東京のマンション市場の方に興味を惹かれています。

勿論、タイの不動産業者としては、バンコクCBDでいいプロジェクトが大幅プライスカットで出れば、お勧め投資対象として読者の皆まさにご紹介していきたいと思っています。

現段階でこれはと言う物件はまだ見受けませんが、上記のような状況から今後出てくる事は十分に期待できるものと思っています。思い浮かべるだけでも、そのターゲットは片手では数え切れません。

但し、物件価格が大きく崩れる以前に、勝ち物件と負け物件の鮮明化が先ず起こるものと思っています。バンコクCBDの人気物件は価格が下がり切れば、底値買いをする人が競うように買っていくでしょうが、条件の悪い物件はちょっとやそっとの値引きでは市場に響く事はないでしょう。

以前から、弊社の顧客にはしつこく繰り返してきましたが、予算が許す限り、市場が悪化した時でも出口プランを建てられる物件をお勧めします。これが外国で不動産投資を行う上での王道ではないでしょうか?

この信条は今もこれからも変わりません。

おすすめ