新規プロジェクトの延期に舵を取るタイ大手ディベロッパー

現地有力英字紙バンコクポストで、多くの有力ディベロッパーが予定していたプロジェクトを来年以降に延期している旨の記事が掲載されていました。

大手ディベロッパーの2019年第二四半期の売上&同期比、上半期の売上&同期比、新売上目標(見直し前)、上半期プリセール売上&同期比、新プリセール売上目標(前期比)の数値が一覧で報じられておりましたので、参考までに下に転載します。


※大手ディベロッパーの第二四半期、上半期売上実績と目標値

上記の数値にはコンドミニアムだけではなく一軒家も含まれている、全体の売上とプリセールが別に計上されている点を留意願います。

一軒家に関しては、敷地が壁で囲われ、出入り口ゲートに24時間体制でガードマンが安全管理する現地ではムーバーンと呼ばれる分譲住宅が多く、含まれている一軒家の数字は主にそのタイプと見ていいでしょう。

高級住宅群の敷地に車で入ろうとするとセキュリティーチェックされるシーンをハリウッド映画でも良く目にしますが、まさにそれです。



※バンコク郊外の高級ムーバーン

もっともムーバーンは全てが高級というわけではりませんが、バンコク郊外では一億円以上の高級分譲住宅を良く目にします。土地付きの為外国人名義では登記できない関係で、当ブログでは紹介した事はありませんが、タイ他アジア地域では一般的です。治安が良好な(最近ではそうでもないようですが、世界の安全都市ランキングはいつも東京が1位に選ばれます)日本では必要性が無かったのかと思います。

12社中8社が減収となっており、アナンダ、L&H、セナは20%を超える減収。中でもセナは38%と大きく落ち込んでいます。因みにアナンダは三菱不動産、セナは阪急不動産と複数の合弁プロジェクトを手がけています。

一番右の欄、Presales Target(earlier)は、現在のプリセール売上目標(見直し前)の意味ですが、半数に当たる5社が目標設定を下方修正している事がわかります。その割には全体の売上ターゲットを下方修正しているのは2社のみで、しかも僅かな下方修正に留めていますので、プリセール販売は延期して既存在庫の販売に注力する、といった明確な方向性が見えてきます。

LPNに至ってはプリセール売上目標を16.5ビリオンバーツから半分以下の8ビリオンバーツに大幅修正をしています。上半期全体のプリセール売上が同期比-59%の実績では無理もない判断かと思います。反面、全体の売上目標は12→11ビリオンバーツと限定的です。行けるのかな?

36ビリオンバーツから30ビリオンバーツと20%下方修正した大手ラグジュアリーコンドミニアムディベロッパーのサンシリは、計画した12件のコンドミニアムプロジェクトの内4件を来年に延期した、と伝えています。

私見になりますが、この下方修正とプロジェクト延期は今後更に続くものと見ています。

2019年の業績低迷は2018年の時点で予測されていましたから、売上目標には当然織り込まれていた筈ですので、「悲観的な目標を立てたにも関わらず、実績は更に下回ってしまった。」というのが事実です。

そして既存在庫の販売環境は更に悪化しているでしょうから、全体の売上目標を下方修正していない中では、かなりの高いハードルへの挑戦というのが実情かと思います。

さて、コンドミニアムにおいては、プロジェクト延期のみならず、プロジェクトの大幅仕様変更や、プロジェクトをホテルに振り替える動きも出ています。

アナンダ社が今年5月に販売開始したプロジェクトIdeo Q Phahol-Saphan Kwai は販売が振るわなかった為、申し込まれたユニットの予約金を返金し解約、プロジェクトのグレードを下げて再度売り出すと報じられています。


※Ideo Q Phahol-Saphan Kwai

又、昨年初めに売り出されたアソーク駅近くのプロジェクトSHAAは、やはり全額返金し解約、ホテル事業に振り替えると発表されました。この物件に関しては、以前当ブログでも「高くて手がでない。」と紹介しています。(参照過去ログ:価格高騰が止まらないアソーク駅周辺プロジェクト)既に販売開始後1年以上経過していますが、たった15%の販売実績に留まっていたようです。

タイ不動産にとっては、海外経済要因においても逆風が吹いています。

過去ログ:2019年の中国人によるタイ不動産投資は大幅減少へ、で中国人投資家の減少を伝えましたが、一昨日にアメリカによる第4弾の制裁関税が発動され、中国が直ちに報復、と事態は一段と深刻化。

中国政府は人民元安を容認し輸出への影響を和らげようとする反面、資本逃避により引き起こされる過度な自国通貨安には警戒しており、あらゆる手段を講じています。

既にアメリカより為替操作国と認定されている中、海外からの批判を受けないように直接的な資本規制を回避し、国家通貨管理局が金融機関に対して厳格指導を行うといった手段をとっていると日経では報じられています。

既に2018年の時点で不動産購入目的の海外送金は事実上認められていませんでしたが、あの手この手で送金を行ってきました。但し、「非平常時」と位置付けている国内経済環境を背景に締め付けは更に厳しくなるでしょうし、それ以前に自国通貨下落とアジア通貨としては高止まりしているバーツ高は購入意欲に大きな影を落としていました。

国内要因、国外要因のどちらを見てもいい材料が見当たらない現状で、楽観的な市場判断は禁物といった言葉に妥当性はなく、危機感を持って臨むべき状況に突入していると認識すべきかと思います。

何度も言うようですが、キャッシュポジションを持つ人には買いの好機ですので、うまくこのチャンスをモノにして下さい。

 

おすすめ